気が弱く毎日上司にいびられながらも真面目に生きている主人公と、コミュ力が高く要領よく生きている同僚が、とある夜に殺人を犯してしまう。
平凡な日々から突如殺人者になってしまった二人の運命はどこへ辿り着くのか?
・鬱々とした毎日を送っている人
・素晴らしい演技を堪能したい人
・怒りをため込んでいる人
・日本映画の陰鬱でドロドロした雰囲気が好きな人
まず本作で素晴らしい点が二つあります。
一つ目が、俳優陣の演技レベルが極めて高いことです。
(こんな人いる!)と思わず膝を叩きたくなるほど、どの登場人物もリアリティを感じられるんです。
少しデフォルメされ過ぎた(ステレオタイプで分かりやすすぎる)キャラもいますが、本作の雰囲気にとても良く合っています。
狂った主人公の演技も素晴らしいものでした。
本作は俳優陣の演技力に大きく支えられていると思います。
二つ目が雰囲気づくりが極めて上手いことです。
その場の空気を吸い込めば、鼻の中が真っ黒になるのが容易に想像できるような汚れ感が映画全体に漂っています。
本作は全編にわたってずっと陰鬱です。
天気で言えばずっと曇りです。
たまにドシャ降りになるし、台風が吹き荒れ、雷も轟きます。
映画に限らず、「静と動」という表現がよく使われますが、本作では「静と怒」と表現するのが相応しいと思います。
ここで言う「怒」とは人間だけが発散する怒りの感情だけではありません。
「汚れてくたびれた作業服」であったり、鉄くずの「ガチャガチャ、ガッシャーン」という人の神経を逆なでするような大きな音であったりです。
会話もまたイライラする(もちろん誉め言葉)んですよ。
「荷物届いてますよ」という報告に対して「知ってま~す」と舐め切った返事をする同僚。
こういう態度を取られると滅茶苦茶イライラしますよね、ボクは滅茶苦茶イライラします。
ともかく、この映画は負の雰囲気づくりが最高です。
この時点でボクは映画館に足を運んで良かったと思いました。
しかし、決定的にダメな(あくまで個人的にですが)ところがあるのも事実です。
冴えない主人公がついにブチ切れるところから物語が大きく動き出すのですが、そこから同じパターンをずっと繰り返すんですよ。
おそらく、ブチ切れて行動を起こしたところで、負のサイクル、あるいは人生の円環からは抜けられないということを表現したかったのだと思います。
しかし、映画的にこのやり方は相性が良く無いんです。
たとえば、名作「ジョーカー」がそうであったように、ついに堪忍袋の緒が切れた主人公が社会に大きな影響を与えたり、舐めてた人間をぶち殺す(言葉が汚くてすみません)からこそカタルシスがあるんです。
ついに偽りを脱ぎ捨てて、あらゆる壁を破壊するからこそ、見ている側は快感を得られるんです。
本作にはそれが無さ過ぎます。
カタルシスなど無く、徹底的に観客を気持ち良くさせてくれません。
(ケ〇ジ〇ウを手に入れたなら、せめて一人くらいはぶち殺して欲しかった…)
どんどんキ〇ガイ染みて行く主人公に対して、結局は何も起こらないんです。
それこそが本作の特徴であり、魅力であると言えばそれまでです。
でも、ボクはもっと気持ち良くさせてもらいたかったです。
そういった部分も含めて、本作は尺が長すぎるように感じました。
40分くらい短くした方が、まだ気持ち良く終われたと思います。
決して駄作ではありません。
クオリティはとても高いと思いますが、映画としての気持ち良さをもっと味わわせて欲しかったです。
最後に、前売り券とその特典のポストカードを貼って終わります。