映画で生き残る

豊富なアイデアと伏線が散りばめられた再生の物語「FALL」感想 レビュー

 

1.「FALL」ってどんな映画?

夫を亡くして失意の主人公が、立ち直りのために地上600mのテレビ塔へ登るが、降りられなくなり…というものです。

 

2.どんな人におススメ?

・高所恐怖症の方

・サバイバルものが好きな方

・シチュエーションスリラーが好きな方

・伏線豊富なストーリーが好きな方

・ヒヤリハットなど、職場で危険予知の仕事をしている方

・プロレスファン(WWEが好きな方はニヤニヤできるシーンがある)

 

3.珠音真珠の感想

めちゃくちゃ良く出来ている作品です。

2023年のベスト候補が早くも登場です。

 

公開規模が大きい作品ではないですが、絶対に劇場で見るべきです。

美しい自然、地上へと吸い込まれそうなほどの高所、鉄が軋む音、これらを最高の環境で体感するべきです。

もはや映画というよりもアトラクションです。

鑑賞ではなく体験して欲しいと思います。

 

フリークライミング中に、夫を亡くしてしまった女性が主人公です。

その失意のほどは凄まじく、1年も酒に溺れて、人との関わりも避けて暮らしています。

そこへ親友が現れ、再起のためにもう一度クライミングをしないか?と持ちかけます。

最初は断る主人公ですが、過去との決別のため、人生をやり直すため、登ることを決意します。

そして、地上600mのテレビ塔へと向かうのです。

 

トレーラーを見ていると、「おバカな二人組が、おバカな企画をして痛い目に遭う」という印象を受けますが、実際はちゃんと登るべき理由があります。

ボクも登山をするので良く分かるのですが、人生で困ったことがあると山へ登るのです。

職場で嫌なことがあれば山を登りますし、女性関係で失敗すれば山へ登ります。

 

本作は山ではなくテレビ塔ですが、人生を前進させるために登るという行為はよく理解できます。

それは決して理屈ではないのです。

 

ボクが本作で好感を持った部分が、高い場所(本作ではテレビ塔)を、決して「恐ろしいだけの場所ではない」としている点です。

頂上へ登ったときに主人公が流した涙を見て、ボクの涙腺も緩んでしまいました。

登り切ったときに得られる達成感や感動もしっかりと描いているのは素晴らしいです。

高所の恐ろしさと感動の両方を描いているのはフェアで好感が持てます。

 

テレビ塔の天辺で身動きが取れなくなる。

 

これはシチュエーションとしても、かなり閉じられています。

たとえば、これが森だったら、周りから食料や物資を確保できるでしょう。

危険な生物を登場させることで、スリリングな展開を作ることも出来ます。

 

ほぼ何も無い鉄塔で、よくこれだけのアイデアを詰め込んだと思えるほどの展開を本作では見せてくれます。

救助のためにSNSを駆使したり、スマホやドローンという現代的なアイテムを使うのも良いですね。

 

この手の創作物でありがちな、(それはさすがに都合が良すぎるだろ…)という展開も、実は伏線だったりするのも興奮しました(ここはネタバレになるので詳しく書きません)。

監督の手のひらで転がされていたことに気付きます。

 

死の淵へ追い詰められたことによって、主人公はある種の覚醒を遂げます。

そして最後には喪失と再生の物語として、完璧な幕が降ろされるのです。

 

豊富なアイデアと伏線、美しくも恐ろしい映像。

分かりやすいメッセージ性とストーリー。

 

安直なジャンル映画ではありません。

本作は2023年のベスト候補です。

劇場で見られたことを、ボクは映画好きとして生涯に渡って自慢できます。

 

危険予知という観点から鑑賞しても面白いかもしれません。

なぜ主人公はこんな目に遭ったのか?

登るための事前準備は万端だったのか?

食料は何を持っていくべきだったのか?

テレビ塔はなぜ封鎖されていたのか?

などなど、主人公がどのような選択をすれば危険を回避できたのか?という目線で鑑賞しても楽しめると思います。

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