ジョーカーなんてメじゃないくらいに悲惨、二度と観たくない映画「ボディビルダー」感想、レビュー

精神的に問題を抱える孤独な主人公が、ボディビルダーとして成功を目指す物語です。
・本気でボディメイクに取り組んだ経験のある方
・一切の笑いなんて要らない、鬱々とした映画が観たい方
”二度と観たくない映画”というのがあります(自分のなかでは”葛城事件”などがあたる)。
本作は二度と観たくない映画の殿堂入りです。
チャンピオンかもしれません。
まず、最初に触れておきたいことがあります。

『ボディビル版ジョーカー』というキャッチコピーです。
実際に映画を観た者として、このキャッチコピーにはツッコミを禁じえません。
宣伝のために”ジョーカー”という言葉を使うのは理解できますが、ハッキリ言って、ジョーカーなんてメじゃないくらいに本作は悲惨です。
そもそもジョーカーという言葉は本作には似合わないし、少なくともタイトルを並べて語られるようなものではありません。
たとえば、
ジョーカーには”カタルシス”があります。
主人公であるアーサーが、悪に目覚めていく様子には興奮を覚える方も多いでしょう。
本作にはカタルシスは無いです。
アガるシーン(展開含め)なんて無いです。
徹底的に気持ち良くさせてくれません。
ジョーカーは共感できます。
ジョーカーは社会の被害者として扱われている側面があります。
(やっちまえ!お前は社会に虐げられて来たのだから復讐する権利がある!)
主人公にノれるのです。
本作は、主人公に共感できません。
なぜなら、降りかかるトラブルの95%くらいが”自己責任”だからです。
(気持ちは分からないではないが、それはさすがにお前が悪くないか…)なんてやりきれない気持ちになるのです。
ジョーカーを期待して観る方は、肩透かしをくらう可能性が高いです。
ジョーカーのように、大多数が楽しめるようにエンタメ化された作品ではないことは念頭に置いた方が良いでしょう。
本作は、ボディビルダーとして成功することを夢見る青年が主人公です。
精神的に問題を抱えていて、極度の癇癪持ちです(病院にも通っている)。
この主人公を演じたジョナサン・メジャースが素晴らしいのです。
演技も凄いですが、溢れ出る”陰”のオーラが凄まじいのです。
もし、おみくじを引こうものなら、すべて大凶が出るのではないか?と思えるほどの鬱々とした暗黒オーラ。
マッチョの俳優は山ほどいますが、あまりに見事なキャスティングです。
同じマッチョでも、たとえばドウェイン・ジョンソン(雰囲気が陽キャ過ぎる)が演じたなら、本作は絶対に成り立たないでしょう。
ボディメイクはある種の”呪い”なのです。
主人公はボディビルに命をかけています。
誇張ではありません。命を削って身体をつくっているのです。
ステロイドユーザー。
夜は毎晩ポルノを垂れ流す(筋肉のために男性ホルモンを刺激している??)
カロリーオーバーしたら食事を吐き出す。
減量のために下剤や利尿剤を使用。
異常(他人から見た場合だが)と思えるような行動を挙げればキリがありません。
本作にはいくつかの食事シーンがあるのですが、まったく食欲を刺激されません。
そこには、”食べる喜び”が無いのです。
必要な栄養を身体にぶち込んでいるだけです。
ボディビルは、”神に逆らう行為”だと自分は考えています。
なぜなら、人間の身体はあそこまで筋肉を搭載するように作られていないからです。
神の定めたルールを打ち破ろうとしているようなものじゃないですか。
余談ですが、自分はかつて30キロ以上のダイエットをしたことがあります。
30キロ以上、体重を落としました。
しかし、さいきんは年相応にお腹が出てきたので、またダイエットを始めています。
ある日の携帯アプリの万歩計の記録です↓

自分はこんなに努力しているんだぞ!なんてアピールする意図はありません。
強迫観念があるのです。
文字通り、取り憑かれているのです。
昔頑張って痩せたよな?
何で腹が出てきているんだ?
また太るつもりか?
昔の自分に何と言い訳をする気だ?
昔頑張った自分にいまの姿を見せられるか?
さっさと動け!身体を動かせ!
ボディメイクはある種の”呪い”なのです。
ましてや、本作の主人公クラスの筋肉を身に付けたとなると…
それは特級呪物と呼んでも差し支えないでしょう。
生活のすべてを身体に捧げ続ける。これを呪いと言わずして…
本作の主人公はトラブルまみれです。
感情を抑えきれない主人公サイドに問題があるのが大半です。
自分で巻いた種。自業自得。
興味深いのが、主人公の周りにはクソ野郎(汚い言葉で失礼)がいないことです。
(こんなクソ野郎がいたなら、そりゃ喧嘩になるよね…)
(こんなクソ野郎、やっちまえ!)
なんて感情移入できないのです。
主人公の肩を持つことは不可能です。
だからこそ、より悲惨なのです。
徹底的に笑えません。
本作にはデートシーンがあります。
お約束の如く、主人公はやらかして相手の女性を呆れさせてしまいます(デートに相応しくない話題を一方的に喋るなど)。
まさに社会不適合者。まさにコミュ障。まさにインセル(incel:非モテという意味のスラング)。
自分は30代の人間です。
他人のデートの失敗なんて笑い飛ばせるような年齢です。
しかし、笑えないのです。
主人公は真面目なのです。主人公は必死なのです。
頼むから、これ以上、痛い姿を見せないでくれ…
本気で劇場から出て行こうかと思ったほどに、デートのシーンは辛かったです(本当にガチで出ていこうか迷った、それくらいキツかった)。
映画的な部分にも、触れたいと思います。
絵面が汚くなり過ぎないように、気を配っていたのが印象的です。
たとえば、
嘔吐するシーンでは吐瀉物までは映さない
主人公が袋叩きにされるシーンも、バイオレンスになり過ぎないように配慮されている
性的なシーンは直接的な描写は控えている
などなど。
直接的に描写しないだけに、観客の想像を刺激します。
だからこそ、より悲惨に感じられるというのは上手い手法だと思いました。
絵面的にも、下品になり過ぎないのが良いですね。
ちなみに、主人公が娼婦を買う場面があるのですが…
ナイスバディのお姉さんが下着姿で登場するのですが、観客のこちら側も、まったく情欲を掻き立てられません。
主人公は、性欲を満たそうとしていたのではないのです。
”自分という存在を受け入れて欲しい”
満たされない心を少しでも癒やしたかったのだと思います。
そういった意思を汲み取れるからこそ、エロスとして楽しめないのです。
秀逸なシーンだと思います。
鬱々とした展開が続き、全体的に地味な映画です。
そこも作り手は分かっているのだと思います。
テコ入れとして、運転シーンが出てきます。
運転シーンの大半は、主人公の暴走シーンと言い換えても良いです。
主人公が車に乗り込む場面は、何かに駆り立てられている場合がほとんどです。(アイツをぶっ殺しに行ってやる!的な)。
頼むから、いまのお前は運転するのだけは止めてくれ…
マジで勘弁して欲しかったです。
本当に心臓が痛くなりました。
たくさんの映画で、数え切れないほどの運転シーン(カーチェイス含む)を見てきました。
これほど緊張感のある運転シーンを知りません。
下手なホラーより怖かったです(これも制作陣の思惑通りでしょう、ナイス演出)。
最後に、気になった部分に触れます。
オチがちょっと唐突過ぎるような気がしました。
オチそのものに不満はありませんが、ちょっと唐突過ぎてノりづらかったです。
ただ、不思議なのです。
映画を観たあとに、、、
この部分が気になるなぁ~
この部分はこうした方が良かったんじゃ~
なんて感想を抱くことは、映画好きならあるあるだと思います。
しかし、本作はそういった不満点があまり浮かばないのです。
いえ、浮かぶのですが、それをやってしまったなら、本作の核が崩れるというか、ボディビルダーという映画がボディビルダーではなくなってしまうというか…
そういった意味では、完成度が高い作品なのかもしれません。
映画が終わり、劇場をあとにしたときに思いました。
(もう二度と観たくねぇ…)
ひたすら心を削られた2時間でした。
実際に、もう二度と観ることは無いでしょう。
レンタルされようが、ネットフリックスやアマプラで配信されようが、二度と観ません。
それが褒め言葉であることは言うまでもありません。
※余談
自分が勝手に思っていることなのですが、、
いまは社会的に”弱者男性”(ジョーカー)が攻撃対象になっているのだと思います。
きっとウケが良いのでしょう。
一昔前は”オタク”が攻撃対象でした。
”ゲーム脳”なんて言葉を筆頭に、オタクがいかにヤバいのかをこじつけレベルで報道されていた記憶があります。
世間を賑わせた犯罪者の部屋には、”美少女アニメが~”なんてニュースがしょっちゅう流れていました。
しかし、ゲームやアニメが商業的に大ヒット(アニメ映画なんてとんでもない売上を叩き出している)してからは、オタクを叩く流れは無くなりました。
ゲームやアニメが市民権を得て、オタクなんて言葉もあまり使われなくなりましたね。
次は何を叩くのでしょう?
オタクの次は弱者男性。
弱者男性の次は何を攻撃対象にするのでしょう?
みなさんは何だと思います?
何ともまとまりの無い文章ですみません。
書きたいことをそのまま書いていたら、このような記事になりました。
ここまで読んでくれてありがとうございます!



