ゲームを原作とした、ホラーとシチュエーションスリラーを組み合わせたような映画です。
異変が見つかったら引き返すこと、異変が無い場合はそのまま進むこと。
謎の通路に閉じ込められてしまった主人公は、脱出するためにルールに従うことにする。
映画の冒頭は一人称視点で展開されるので、酔いやすい方は注意しましょう。
自分は映像酔いがひどいタイプなのですが、軽い吐き気と頭痛がしました。
しかし、一人称視点は冒頭だけなので、そこで鑑賞をやめるのは勿体ないです。
・メッセージ性の強い作品が見たい方
正直に言えば、映画を見に行くつもりはありませんでした。
PVから地雷臭が漂っていたからです。
自分がPVを見て気になった部分は2つです。
1.超国民的アイドルが主役になっていること
アイドルを主役にすれば、とりあえず人が見に来るっしょ?
2.子どもが登場すること
子どもがひどい目に遭うのは倫理的(大人の事情的)に許されないから必然的にソフトなもの(ホラーとしてヌルいもの)になると予想が付く。
超大ヒットしたゲームを適当に映画化すれば儲かるんじゃね??
そういった安直な思想の元に作られた作品である予感がしたのです。
この場を借りて勝手に謝罪します。
舐めてて本当にすみませんでした。
本作は、そのような映画とは対極にあります。
物凄く誠実に作られた作品です。
ちなみに自分は原作のゲームもプレイ済みです。
映画の感想について。
結論から言うなら、よく出来ているけれど自分は好きではない、という感想になります。
その理由も含めて書いていきます。
まずは良かった点を。
映画全体のビジュアルが素晴らしいです。
8番出口の舞台となる、駅の通路の再現度は、ほぼ完璧でしょう。
テカテカとした光を反射する壁のタイルは、原作ゲームに近いものがあります。
アンリアルエンジンのヌルヌルテカテカした質感をそのまま映画で再現できています。
主人公も良かったです。
劇中では詳しい設定は明かされませんが、それなりに年齢を重ねた人物であることは推測できます。
年齢を重ねているものの、人間的にはどこか幼い
そういった絶妙な雰囲気を醸し出しています。
これ以上に若くても、年老いても、テーマも含めて映画には合わなかったと思います。
個人的にもっとも素晴らしいと感じたのが、アイドルとしてのオーラが見事に消えていることです。
社会的な弱者をアイドルのような強者が演じる(陰キャを陽キャが演じると言い換えても良い)と、どうしても違和感が拭えないものですが、本作ではほとんど感じられませんでした。
こういう人、普通にいるよね…
駅ですれ違うよね…
そう思わせるだけのリアリティがありました。
ある意味では”裏主人公”と呼んでも良いでしょう。
「おじさん」の演技がヤバすぎました。

上の画像はゲームのものですが、映画でも登場します。
実写化されても、動きがゲームそのままなんです。
(おそらく、壁にぶつかってもそのまま歩き続けるんじゃないか?)そんなことを思わせるほどにゲームっぽく無機質な印象を与えてくれます。
その佇まい、歩き方、一挙手一投足が完璧です。
とても人間には見えません。
これをスクリーンで見れただけでも良かったです。
ここからは自分が気になった部分を書いていきます。
おそらく、本作が好きな人は、8番出口という作品に、ストーリーやメッセージ性を巧みに練り込んだことを評価していると思います。
ここは自分も認める部分で、よくここまで8番出口を拡大解釈したな、と素直に驚いています。
しかし、それと同時に、原作との食い合わせの悪さが目立つのです。
原作のゲームは、システムだけの作品です。
ストーリーやメッセージ性はありません。
通路の異変を見つけ出して判断するだけの間違い探しゲームなのです。
実は、実験施設だった。
実は、狂人の精神世界だった。
そういったものはありません。
この構造を映画に落とし込むこと自体に無理があったと思います。
異変がある場合は良いのです。
異変が起きて、主人公がリアクションする。
それだけで絵面として面白いものになります。
問題は、異変が無い場合です。
何も無い駅の通路を通るだけになります。
何も面白くありません。
そもそも、ループする通路という舞台で、何も起きない、何も無い、これは映画として致命的に退屈なものになりかねません。
作り手も、おそらくそれを分かっているのでしょう。
とくに中盤以降は、8番出口の設定などはほぼ置き去りになって、ストーリーやメッセージ性が映画を引っ張ることになります。
”異変”とは何なのか?
何が”異変”として認識されるのか?
物語が進むにつれて曖昧になってきます。
とあるチート的な人物(間違いを◯◯できる)が介入してからは、それが顕著です。
異変探しとかどうでもよくなるんですよね。
異変を発見できなければ、この煉獄にずっと閉じ込められる
そのような緊張感が無くなります。
ただ、その代わりとして、ド派手な映像表現や、メッセージ性が強くなります。
映画として退屈になることは無いのです。
ここは上手く作ってあるのとも言えるのですが…
もう8番出口じゃなくて良いんじゃない…?と野暮なことを思ってしまったのも事実です。
個人的に、もっとも好きになれないのが、ウェットに作り過ぎなことです。
本作に込められたメッセージ性は分かるし、8番出口にフィットしていると思います。
ループする通路は日常の繰り返しのメタファー、そのなかに発生する異変(日常の変化、機微)に気付く、あるいは自覚的に異変を発生させることによって、未来が…
やりたいことは分かります。
言いたいことも分かります。
映画冒頭の電車内でのシーンはとくに問題があると思います。
満員の電車内で、赤ちゃんの泣き声に腹を立てたサラリーマン風の男が、赤ちゃんを抱えた女性に怒鳴り散らすというシーンがあります。
それを主人公は他人事として見て見ぬ振りをするのです。
現代社会の暗部を切り取ったような一幕です。
映画としてもかなり重要なシーンです。
そのことについて、後々、主人公はこんなことを言います。
「電車内で赤ちゃんを見捨てた自分が父親になる資格なんてあるのだろうか」(台詞はうろ覚え)
電車内で同じようなシチュエーションに出くわしたら、ほとんどの人は何も出来ないと思います。
赤ちゃんを抱えた女性がいるのに、気付かぬふりをして席を譲らなかった
明らかに迷子になって泣いている子がいるのに、知らないふりをして無視した
これくらいのソフトな出来事で良かったと思います。
悪い意味でドラマチック、そしてウェットな作りに、物語に乗れないのです。
人生では何が正しいのかなんて分からないじゃない
あまりにイイ話にしようとし過ぎです。
過剰にウェットな台詞や演出に、しらけてしまったのです。
自分が本作を好きになれないポイントです。
ただし、本作を映画館まで見に行って本当に良かったと思います。
自分が好きになれないポイントは、完全に自分の感性によるものです。
少なくとも、自分は本作を見ながら腹が立つことはありませんでした。
(あぁ…映画として作るならこういう風になるよなぁ…仕方ないけど…う~ん…自分は好きなノリじゃないな…)
面白いです。
よく出来ています。
でも、やっぱり自分は好きになれないんです。
ウェット過ぎるのです。
イイ話に作り過ぎです。
自分はどうしても乗れないのです。




