カバーアクション主体のTPSゲームです。
メインストーリーは、主人公率いるデルタフォースの三人がドバイへ救出任務に向かうというものです。
いわゆる鬱ゲーというジャンルに属するような作品であり、ゲームに爽快感などを求める方にはおススメできません。
しかし、普通の戦争ゲームに飽きた方、考察好きな方、第四の壁を壊す作品が好きな方などは、ぜひプレイして欲しいです。
とにかく一度プレイしたなら語りたくてたまらなくなるような作品です。
なかなかとんでもない怪作だと思いますよ。
・考察好きな方
・鬱ゲーが好きな方
・メタ的な作品が好きな方
・戦争を英雄譚ではなく悲劇として描いた作品が好きな方
・ストーリー
・作品的な欠点が世界観にマッチしている(詳しくは珠音真珠の感想にて)
・主人公の体力が低すぎてチキンプレイしかできず爽快感がない
・最初から最後までやっていることが変わらない
・気持ちの良い(アガる)シーンが無い
※↑これらの欠点も作品とマッチしているんです
・なるべくネタバレ無しでプレイすること
・徹底してカバーアクションに徹すること
・徹底してチキンプレイに徹すること
・絶対に無理をせず、体力の回復を待ってから動くこと
・クリアできない場面では、敵の出現パターンや配置を覚えること
とくに映画が顕著だと思いますが、戦争というジャンルを取り扱った作品は、その描き方によって「英雄譚」として気持ち良さを観客に伝えるもの、「ドキュメンタリー」として戦争の残酷さや制作者のメッセージを伝えるものかに二分されます。
有名なランボーシリーズも、その作品によって観客へ与える印象が大きく異なります。
戦場で敵を蹴散らし捕虜を救出するヒーローであることもあるし、戦争がいかに残酷で人を狂わせてしまうのか?を表現していることもあります。
本作「Spec Ops: The Line」は、完全に後者です。
つまり、戦争の残酷さ、戦争によって狂ってしまった人間を描いている作品です。
ゲームとして見れば、粗削りながら、ごく普通のTPSと言えます。
大きな加点要素も無ければ、大きな減点要素も無い、まぁ普通のTPSです。
そのなかでも強いて特長を挙げるとすれば、主人公の体力が極めて低く、カバーアクションが主体となることくらいです。
敵に突っ込もうものなら一瞬でハチの巣にされます。
チキンプレイ上等、徹底して物陰からヒョコヒョコと頭を出しながら、敵を少しづつ排除していきます。
この辺りはゲームデザイン的に好みが分かれそうなところです。
とにかく撃ちまくりで敵を蹴散らし、爽快感を求める方は、ストレスが溜まるかもしれません。
そして、最初から最後までやっていることがほぼ変わりません。
相変わらず、物陰から敵を射殺しているだけです。
たまにヘリから機銃を撃ちまくったりするような場面がありますが、ごく一部です。
ストーリーもまるでループする悪夢のようです。
何処へ向かっているのか分からないほど、泥沼へと堕ちていきます。
味方だと思っていた部隊と殺し合いになる、敵と同時に市民まで殺害してしまう…
分かりやすい悪役がいるわけでもなく、どんどん事態が悪化していきます。
個人的に仮面ライダーブラックサンのキャッチコピーがぴったりだと思いました。
「悪とは。何だ?悪とは。誰だ?」
ストーリー的な展開も相まって、気持ち良くなれる(アガれる)シーンなんてありません。
ずっと、悲惨です。ずっと悲劇です。
しかし、このような作品的な欠点と言える部分が世界観とマッチしているんですよ。
・カバーアクション重視で爽快感が無い
・最初から最後までずっとやっていることが同じ
・気持ち良くなれるシーンがない
主人公は敵を蹴散らし無双する英雄ではないし、ずっと戦争という地獄にいるんです。
「だってこれは戦争だから!!」
この一言で欠点を黙らせるほどの世界観がこの作品では見事に構築されています。
さて、ここからはより「メタ的」な視点の感想と考察に移ります。
ネタバレに関わる部分なので、あまり強く触れませんが、本作は第四の壁を壊すようなメタ的な視点も含まれている作品です。
分かる人にだけ分かるように書けば、「ファークライ」、「バイオショック」などに近い性質を持っているということです。
Q「なぜ引き返さないのか?」
A「これは任務だからです」
戦争という次元の話になると、平和な国に暮らしている我々では、少し現実味が薄れてしまうかもしれません。
もう少しリアリティのある段階まで次元を落としてみましょう。
Q「なぜ休まないのか?」
A「これは仕事だからです」
戦争だからと言って、兵士としての責任から、人を殺しながら忠実に任務をこなす。
仕事だからと言って、社会人としての責任から、身体を壊してでも働く。
その本質は同じです。
そして、もっと怖いことは、自分に与えられたものに対して、疑いを持たず突き進んでしまうこと。
その結果、引き返せずに狂ってしまうこと。
ボクは本作をsteamで購入しました。
ゲームを購入したのですから、プレイするのは当たり前です。
まるでメタルギアソリッド2のように、「ゲームをやめろ、電源を切れ」とゲーム側から言われても、ボクはゲームをやめることはないでしょう。
だって、ボクが買ったゲームなのですから、ボクがプレイするのは当たり前です。
しかし、その「当たり前」というのは本当に正しいのか?
言われるままに道を進み続けるのは正しいのか?
この普遍的な問いを本作ではゲームを通してプレイヤーに突き付けてくるのです。
この感覚はどこかで覚えがあるなぁ、なんて考えていたら、思い出しました。
映画「ミスト」です。
映画好きの間では、言わずとしれた名作ですね。
ボクはミストという作品が「何を伝えたい映画」なのか友だちと意見交換をしたことがあります。
「人生の無情さ」、「最後まで諦めないことの大切さ」など色んな意見が出ましたが、ボク個人の結論はこうです。
「主人公だからと言って、無条件に信じるな」ということ。
ボクらは創作物に触れるときに、自然と主人公へ感情移入してしまいます。
主人公にノれない作品は、楽しむのも難しいので、自然と主人公のキャラクターに傾倒してしまうのです。
そこを逆手に取って警鐘を促したのが、ミストという作品ではないのかと。
もちろん、これはボク個人の感想であり考察なので、押し付けるつもりはありません。
気が付けば、長々と書いてしまいました。
ともかく、本作「Spec Ops: The Line」は一度プレイしたら語りたくてたまらなくなるような作品であるということだけでも伝われば幸いです。
ウェルカム・トゥ・ドバイ!!