※核心に迫るようなネタバレはありませんが、事前情報なしで観たい方は読まない方が良いです

 

 

1.「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」ってどんな映画?

母を亡くした孤独なお針子の主人公。

ある日、山道で麻薬の取引現場に遭遇する。

目の前には、瀕死の男二人と大金が入ったアタッシュケース。

さぁ、どうする??

 

2.どんな人におススメ?

・スリリングな映画が観たい方

・斬新な映画が観たい方

 

3.珠音真珠の感想

”世界一不運なお針子の人生最悪な1日”

邦題が長い!

 

ちなみに原題は「Sew Torn」です。

Sew=縫う

Torn=ボロボロ、引き裂かれた

無理矢理に意訳するのなら「縫っては引き裂かれ」というような感じでしょうか。

 

結論から言います。

本作は傑作です。

個人的に、いままで観た映画で10本の指に入るくらいに面白かったです。

 

この映画の何が凄いか?

麻薬の取引現場に遭遇してしまった主人公。

瀕死の男二人と大金が入ったアタッシュケースが目の前にあります。

そこで主人公には”3つの選択肢”が頭に浮かびます。

1.アタッシュケースを盗む

2.警察に通報する

3.無視して立ち去る

本作は、3つの選択肢のすべてを見せてくれます。

それで”1時間40分”に収まっているのです。

この手際の良さ。この整理力。

 

3つの選択肢について。

3つの選択肢は、上記した順番通りに進行します。

まずはアタッシュケースを盗んだ場合。

次に警察に通報した場合。

最後は無視した場合。

この流れには不安を覚えました。

だって、映画的にはアタッシュケースを盗むのが一番面白くなりそうじゃないですか。

最初が一番面白くて、あとは尻すぼみになるのではないか…

杞憂でした。全部面白いです。

完璧な流れです。

そして、どの選択をしても”ろくな展開にはならない”のです。

ろくな展開にならないというのは、映画的にスリリングであるということです。

つまり面白いということです。

 

お針子の主人公が”裁縫能力”のみを頼りに、あらゆる危機的状況から脱します。

能力もユニークですが、その見せ方も上手いのです。

なぜこの場所に糸を通しているんだ?

なぜこの場所に針を刺したんだ?

初見では、何をやっているのか読めないように作られています。

しかし、次の瞬間には、まるでピタゴラスイッチのようにギミックが作動し、回答を見せつけてくれます。

たとえ、(このようなギミックが作動するのだろうな)と予測したとしても、その後の展開には上手く捻りを加えてくるのです。

なるほど…!そう来たか…!

この感覚は癖になります。

 

映像的にも工夫がみられます。

主人公は裁縫店の営業車を運転しています。

車の後部に大きな糸が付いている車です。

※イメージ↓

主人公が始めて車に乗り込むドライブシーンでは、後部の糸を大写しにします。

ユニークな絵面ですが、自分は思いました。

(もっと周りの景色も見たいなぁ)

物語の舞台はスイスなのでとても自然が美しいのです。

その期待に答えてくれるように、少しすると周囲の美しい景色も見せてくれます。

何て気が利いているんだ…

最初から美しい周囲の景色も見せてくれていたなら、味わえなかったカタルシスです。

 

麻薬の取引をしていた男が、主人公の家に連れ込まれるシーンがあります。

主人公の家は、天井に糸が張り巡らされています。

まるでクモの巣のようです。

裁縫ギミックを使って絡め取られる男の絵面は、まるで女郎蜘蛛の捕食対象となったかのようです。

ゾクゾクするし、興奮するし、映像の見せ方として完璧だと思います。

何というか、物凄く”映画を観ている感”があるのです。

 

出てくるキャラがみんな”濃い”です。

キャラが立っています。

主人公の性格もワケが分からないです。

陰鬱で影のある美人なのですが、倫理観が微妙にバグっています。

自分では殺さないが、他人には平気で殺しをさせる。

警察には通報するが、ちゃっかりアタッシュケースは盗む。

などなど。

主人公の周囲にいるキャラも、みんなどこかネジがハズレています。

とくに女性陣が凄いですね。

良い意味でオーバーアクションで、まるでジョジョに出てくるキャラクターのようです。

そして、眼力、というか”顔面力”というべきか、顔がとにかく凄い。

目がギョロギョロとして、失礼ですが、笑いを堪えるのに必死でした。

あらゆる掛け合いがイチイチ面白いのです。

不思議なのですが、そのヘンテコなキャラたちが、妙に”リアル”に感じられるのです。

やっていることも言っていることも滅茶苦茶なのですが、(まぁ人間ってこういうもんだよね…)という謎の親近感が湧いてきます。

 

最後に、鑑賞直後はオチが少しモヤモヤとしました。

蛇足なのではないか、と。

選択肢3の無視するエンドのままで終わった方が収まりが良かったのではないか、と。

しかし、観終わってしばらくすると、あのオチで良かったと思えるようになりました。

無視するエンドは、収まりが良いのは事実ですが、創作物としてありきたりです。

ちょっとモヤるくらいの微妙な感覚こそが、本作に合っています。

そこも本作の好きな部分です。

 

決して、ビッグバジェットではありません。

レンタルや配信で見かけて、(何だか面白そうだな)と思って観たら、思わぬ掘り出し物だった、くらいの作品です。

しかし、独創的であり、斬新であり、真摯に映画をしている素晴らしい作品です。

自分は大好きです。おすすめの作品です。

 

パンフレットも買いました↓

通常のパンフレットと比べてサイズが小さいし、ページ数も少ないです。

ビジュアル的にも、デザインが簡素な印象を受けます。

ただ、掲載されている監督インタビューが興味深かったです。

監督いわく”コーエン兄弟”から影響を受けているらしいです。

たしかに、本作はコーエン兄弟の作風に似ているかもしれません。

シュールなんだけれど悲惨

悲惨なんだけれどシュール

独特のバランス感覚は、コーエン兄弟に似通ったものがあります。